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運動すれば元気になる、が通用しない人たち
運動すれば元気になる、が通用しない人たち
Long COVIDとPEMを「体力低下」で片づけない
「疲れているなら、少し運動した方がいいですよ」「体力が落ちているから、少しずつ運動量を増やしましょう」。慢性疲労の患者さんは、このようなアドバイスを受けることがあります。
もちろん、運動は健康を維持するために非常に重要です。私自身も運動を勧めます。しかし、運動すれば元気になる人と、運動することで逆に体調を崩してしまう人がいます。
特にLong COVIDで問題になるのが、PEM(Post-Exertional Malaise:運動後症状増悪)です。
PEMでは、少し運動しただけなのに、その後強い疲労感が出たり、翌日から数日間動けなくなったりします。仕事や買い物、場合によっては入浴程度の活動でも体調を崩すことがあります。
このような患者さんを「運動不足」「体力が落ちただけ」「気持ちの問題」と考えてしまうと、治療の方向を間違える可能性があります。
PEMは、単純な廃用症候群として捉えるべきではありません。
Long COVIDでは、骨格筋そのものに異常が生じている可能性が示されています。骨格筋にアミロイド様物質や微小血栓が蓄積すれば、筋肉への酸素供給が妨げられます。さらに運動後には、ミトコンドリアでATPを産生するOXPHOS(酸化的リン酸化)の能力が健常者より低下することが示されています。
つまり、本人は「頑張ろう」としているのに、細胞ではエネルギーを十分に作れない状態が起きている可能性があります。
私は以前のブログでも、人生は気合いではなくATPで動いている、と書きました。
まさにPEMは、そのことを非常に分かりやすく示していると思います。
さらに骨格筋では、運動後にCD3+ T細胞やCD68+マクロファージなどの免疫細胞が異常に浸潤し、局所炎症が生じることも示されています。つまりLong COVIDの患者さんにとって運動は、単に筋肉を使う行為ではなく、ミトコンドリアのエネルギー不足と炎症をさらに表面化させる負荷になってしまうことがあります。
これは非常に重要な違いです。
通常の運動不足であれば、少しずつ運動量を増やすことで体力は回復していきます。しかしPEMがある患者さんに同じ考え方で運動を強く勧めれば、かえって症状を悪化させる可能性があります。
だからこそ、慢性疲労を診るときには「運動できますか?」だけでは不十分です。
「運動した翌日はどうなりますか?」
ここまで聞く必要があります。
運動中は意外と動ける。しかし翌朝起きられない。翌日からブレインフォグが強くなる。仕事ができなくなる。数日間寝込んでしまう。このような反応があるなら、単純な体力低下とは分けて考える必要があります。
副腎疲労や慢性疲労の診療をしていても、私は「運動は身体に良い」という常識を全員に当てはめないことが大切だと考えています。
元気な人には運動が薬になります。しかし、エネルギーを作れない状態の人にとって、運動は負荷にもなります。
まず必要なのは、無理に運動量を増やすことではなく、なぜエネルギーを作れないのかを考えることです。ミトコンドリア、炎症、免疫、酸素供給など、身体の中で何が起きているのかを理解しながら、その人が耐えられる活動量を見極めていく必要があります。
Long COVIDによって、これまで「疲労」という一言で片づけられてきた症状の一部が、少しずつ細胞レベルで見えるようになってきました。
疲れているから運動する。運動できないから体力がない。
そんな単純な話ではありません。
PEMは「怠けている」のでも、「根性がない」のでもありません。骨格筋で起きているミトコンドリアのエネルギー不全と局所炎症を考える必要がある病態です。
患者さんの「運動すると悪くなる」という言葉を、まず信じること。
そこから治療は始まるのだと思います。