診療内容について、ご相談・ご質問等、
お気軽にご連絡ください。※お電話のおかけ間違いが多発しております。
ご注意いただけますようお願いいたします。
マイコトキシン(カビ毒)は、なぜ全身に影響するのか 小麦やコーヒーに含まれるカビ毒と、ミトコンドリア・免疫・ホルモンへの影響
カビ」と聞くと、多くの方は浴室やエアコン、食品に生えたカビを想像すると思います。しかし、私が慢性疲労や副腎疲労の診療で注目しているのは、カビそのものだけではありません。**カビが産生するマイコトキシン(カビ毒)**です。
マイコトキシンは、特定のカビが産生する有害物質です。特に注意したいのは、私たちが日常的に食べている小麦、トウモロコシ、米などの穀物や、コーヒー豆、ナッツ類、ドライフルーツなどにも含まれている場合があることです。
例えば、小麦やトウモロコシではデオキシニバレノール(DON)やゼアラレノン、コーヒー豆ではオクラトキシンA、トウモロコシやナッツ類ではアフラトキシン類などが問題になります。もちろん、すべての小麦やコーヒーに危険な量のカビ毒が含まれているわけではありません。しかし、食品を通じて日常的にマイコトキシンに曝露する可能性があることは、知っておいてよいと思います。
カビ毒の厄介なところは、食品に目に見えるカビが生えていなくても存在する場合があることです。また、一部のマイコトキシンは熱に比較的強く、パンを焼いたりコーヒー豆を焙煎したりしても、完全には除去できない場合があります。
私は以前から、体調の悪い患者さんにはグルテンフリーを提案することがあります。グルテンそのものへの反応、腸内環境、血糖変動など理由はいくつかありますが、小麦由来のマイコトキシンへの曝露を減らす可能性があるという点も、食生活を考える際の一つの視点です。ただし、グルテンフリー食品にもトウモロコシや米などに由来するカビ毒が含まれる可能性があり、グルテンフリーが必ずしもカビ毒対策になるわけではありません。
では、こうしたマイコトキシンは身体の中で何をしているのでしょうか。
私が興味深いと思うのは、マイコトキシンが一つの臓器だけに作用するわけではないということです。
オクラトキシンAは腎毒性がよく知られ、酸化ストレスやミトコンドリア機能への影響も研究されています。アフラトキシン類、特にアフラトキシンB1は肝毒性や発がん性が重要です。トリコテセン類はタンパク質合成を阻害し、消化管や免疫系などに影響します。グリオトキシンやミコフェノール酸は、免疫細胞の機能を抑制する作用が知られています。
そして私が特に注目しているのが、ミトコンドリアへの影響です。
ミトコンドリアは、私たちが活動するために必要なATPを産生する細胞内の重要な器官です。脳も筋肉も肝臓も、ATPがなければ正常に働くことができません。
一部のマイコトキシンは、細胞膜への作用やミトコンドリア機能の障害、活性酸素種(ROS)の増加を引き起こすことが実験研究で報告されています。ROSが過剰に発生すると、細胞膜の脂質、タンパク質、DNAなどが損傷を受けます。抗酸化システムが十分に対応できなければ、細胞機能の低下やアポトーシスにつながる可能性があります。
慢性疲労の患者さんが訴える「エネルギーが出ない」「頭が働かない」「少し動いただけで疲れる」という症状を考える際にも、私はミトコンドリア機能を重視しています。もちろん、こうした症状があるからといって、マイコトキシンが原因だと判断できるわけではありません。しかし、環境毒素が細胞のエネルギー産生に影響する可能性があるという視点は、慢性疲労を考えるうえで興味深いテーマです。
さらにマイコトキシンには、神経毒性や免疫毒性を示すものもあります。エニアチンB、オクラトキシンA、トリコテセン類などは、実験研究で神経細胞への影響が報告されています。脳や神経は大量のエネルギーを必要とするため、ミトコンドリア障害や酸化ストレスの影響を受けやすい組織でもあります。
そして、私がもう一つ注目しているのが、ゼアラレノンとエストロゲンの関係です。
ゼアラレノン(Zearalenone:ZEN)は、主にフザリウム属のカビが産生するマイコトキシンで、小麦やトウモロコシなどの穀物を汚染することがあります。この物質の特徴は、女性ホルモンであるエストロゲンと構造的に類似した部分を持ち、エストロゲン受容体に結合できることです。
通常、エストロゲンは細胞内の受容体に結合し、遺伝子発現や生殖機能などを調節しています。しかしゼアラレノンも同じ受容体に結合し、エストロゲン様のシグナルを発生させることがあります。
つまり、体内でエストロゲンが増えていなくても、外部から入ってきた物質がエストロゲンに似た作用を示す可能性があるのです。
これは内分泌攪乱作用と呼ばれる現象の一つです。
ゼアラレノンは動物実験において、生殖器への影響、性周期の変化、生殖機能の異常などが報告されています。さらに、体内で代謝されて生じるα-ゼアラレノールなどは、元のゼアラレノンより強いエストロゲン活性を示す場合があります。
私はこの点が非常に興味深いと思っています。なぜなら、マイコトキシンは単に細胞を傷つけるだけではなく、身体が本来持っているホルモンの情報伝達に介入する可能性があるからです。
ただし、ゼアラレノンのエストロゲン様作用は確立した毒性学的知見ですが、通常の食品曝露によって人間の更年期症状、月経異常、ホルモン依存性がんなどがどの程度生じるのかについては、まだ十分に明らかになっていません。
こうして見ると、マイコトキシンの影響は実に多様です。肝臓、腎臓、神経、免疫、消化管、ミトコンドリア、そして内分泌系。一つの物質が複数の臓器に作用することもあれば、毒素の種類によって標的となる臓器が異なることもあります。
私は慢性疲労や副腎疲労を診療する際、一つの臓器だけを見ていても説明できない患者さんに出会います。腸内環境、ミトコンドリア、免疫、感染症、環境毒素など、複数の要因を考える必要があるからです。
マイコトキシンは、身体を臓器ごとではなく、細胞や代謝のつながりから考える必要性を教えてくれるテーマの一つだと思っています。
もちろん、毒性が実験で確認されていることと、一般的な食品曝露が慢性疲労などの原因になることは同じではありません。日本でも食品中の一部のマイコトキシンについて基準値や管理対策が設けられています。
大切なのは、小麦やコーヒーを一律に悪者にすることではなく、食品の品質、保管状態、食生活全体を考えることです。
そして、もう一つ興味深い問題があります。
同じマイコトキシンに曝露されても、身体への影響には個人差があるのではないか。
私は、そこに遺伝的背景が関係している可能性があると考えています。
次回は、マイコトキシンとSNPs遺伝子検査、そして解毒の考え方について書いてみたいと思います。